2026.03.22

歯を治すだけの人生から、“生き方”に関わる人生へ

長いあいだ「足りないもの」を埋めようと努力を続けてきた梅木さん。しかし、分院長という立場に就き、経験を積んでも消えなかった不安の正体は、スキル不足ではなく、内側にある思い込みだった。その事実に気づいた瞬間、梅木さんのキャリアは大きく方向を変え始めます。

不足感から焦りや不安が生まれるなら、足りないものを追いかけるのではなく、「すでに自分の中にあるもの」を見つめ直せばいい。そう考えるようになってから、患者さんとの関わり、治療スタンス、そして売上までもが目に見えて変化していきました。

歯科医としての枠を超え、人の“生活”や“健康”そのものに関わる方向へと歩み出した理由、そして「歯×食×健康」という新しい未来構想に迫っていきます。

第1回:「お前は歯医者になれ」親の一言でスタートとしたキャリア
第2回:1食100円の極貧生活・過労・自信のなさに沈んだ歯科医師時代

目次

不足感から来る焦りを断ち、自分の中にあるものを見つめ直す

梅木さんがセミナー、勉強会などに参加し積極的に学び続けている背景には「自分にはできない不足感」を埋めたいという想いがありました。

しかし、とある出会いが転機となり、梅木さんの中に変化が訪れます。当時出会った方から学んだ考え方、それが「いまあるものに目を向ける」こと。

足りないものを外に求め続けても、終わりがない。むしろ、自分の中にすでにあるものと向き合えていないことこそが、焦りや不安の理由だったのではないか。

自分のなかの経験やスキル、人との向き合い方。それらを丁寧に見つめ直してみると、「もっとやれるかもしれない」「すでに持っているものもある」と思える感覚が少しずつ芽生えていきました。

足りないものを追うのではなく、自分の中にあるものを活かしていく。この考え方は、その後の梅木さんの仕事の進め方を大きく変えていくことになります。

売上が1.8〜2倍に上がったきっかけ

考え方が変わりはじめた頃、仕事への向き合い方にも大きな変化が生まれました。それが「できない前提」ではなく、やり切る前提で仕事に向き合うという姿勢です。

たとえば治療のスピード。以前は「慎重に」「丁寧に」を意識するあまり、時間をかけすぎてしまうこともあったといいます。しかし、患者さんのために“できる限り早く、正確に終わらせる”ことも医療の価値なのだと考えるようになり、処置のスピードを上げる工夫を続けていきました。

そしてもう一つは、患者さんとのコミュニケーション。黙々と治療をこなすのではなく、自分が持っている知識や経験を言葉にして伝えることで、信頼関係が自然と深まっていきました。

気づけば、顧客数・リピーターが増え、提案も受け入れられやすくなる。結果として、売上は1.8〜2倍に伸びていたそうです。

特別な治療や新しい資格を取ったわけではありません。変えたのは仕事への向き合い方。できない部分を探すのではなく、できることをやり切る。その積み重ねこそが、大きな成果につながっていったのです。

歯医者の枠を超えた関わりへ

梅木さんは、自分の中にあった不足感がなくなってからは、次第に本当にやりたいことが見えてきたともいいます。「歯を治す」ことだけが自分の役割ではないと感じるようになり、診療の中では歯の状態より先に、患者さんの生活習慣や食事内容が原因になっているケースが多いとのこと。

「何を食べていますか?」「最近どういう生活をしていますか?」治療の前にそんな質問をすることも増えていきました。

そこで見えてきたのは、歯そのものだけを治療しても、根本の問題が解決しない人が少なくないという現実。むしろ、生活の中で口から入る“食”が、体調や健康のベースをつくっていることに、日々の診療を通して気づかされていったのです。

気づけば相談内容は歯の痛みだけではなく、食事、体調、健康習慣まで広がり、梅木さんの働き方は、自然と“歯科医”の枠を超えたものへと。

歯を治すだけじゃない。その人が健康に生きるために、生活の根っこに寄り添うこと。そこに、自分が歯科医として何を大切にしたいのかという答えが、少しずつ見えてきたと言います。

未来構想|「歯×食×健康」という新しい軸

現在、梅木さんが関心を寄せているテーマは「歯×食×健康」。これまで診療の中で患者さんの食習慣や生活状況に触れることが増えるほど、歯の問題は単体では語れないことに気づいたといいます。

歯は「食べる入り口」であり、健康と生活の質そのものに深く関わる領域。虫歯や歯周病を治すことはゴールではなく、人生をより快適に過ごせるように導くための手段である。そう考えるようになりました。

今後は来院された患者さんへのアドバイスにとどまらず、食や健康をテーマにした講習会やセミナーの開催も視野に入れています。

“歯医者だから歯だけを見る”という時代ではない。梅木さんが見据えているのは、歯科医療を起点に、人の健康と人生の質そのものに寄り添っていく新しい関わり方です。

歯科医という仕事の本質

梅木さんの中で「歯科医」という仕事は、単に虫歯を治したり、歯を守るための専門家ではありません。治療を通じて失われた機能を取り戻し、再び“食べる喜び”や“生きる楽しみ”に繋げることができる。言ってみれば、人生の質(QOL)を回復させる仕事だと捉えるようになりました。

歯を治すだけでは終わらない。その人が自分の人生をより良いものにするための支えになること。

梅木さんは、そんな“人の人生に寄り添う仕事”として歯科医療を続けています。そしてこの姿勢こそが、これからの歯科医という職業に求められる本質なのかもしれません。

この記事を書いた人

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