日本の伝統的なお菓子を作る和菓子職人。小さな世界で展開される芸術美は圧巻!

和菓子は茶の湯の発展とともに長い歴史を超えて受け継がれてきた日本の伝統文化です。

そんな和菓子を作る和菓子職人は、日本の伝統を継承していく仕事であり、単なる「お菓子の作り手」ではありません。日本の豊かな四季、歴史、そして和歌や物語といった目に見えない「情緒」を、手のひらサイズの小さな宇宙に表現する「五感の芸術家」と言えます。

目次

和菓子職人の仕事の魅力とは?

その仕事の魅力は、「素材との対話」にあります。和菓子の命である「あん」作りは、小豆の声を聴くことから始まります。その日の気温や湿度を見極め、火加減を秒単位で調整しながら炊き上げる作業は、職人の経験と勘が問われる真剣勝負。そうして生まれた、艶やかでなめらかなあんは、口に含んだ瞬間に素材の力強さと優しさを伝えてくれます。

また、「究極の造形美」も和菓子の欠かせない魅力です。木べら一本、あるいは自らの指先だけで、一輪の桜や秋の夕暮れを鮮やかに描き出します。あえて形を細部まで作り込み過ぎず、具象的に作りすぎず、食べる人の想像力に委ねる「引き算の美学」は、日本人の繊細な感性そのものです。

そして、最も尊いのは「おもてなしの心」です。茶席で「このお菓子は何という名前ですか?」と問われた際、職人は季節の情景を込めた「銘(なまえ)」を答えます。客人はその銘を聞き、菓子を味わい、季節の移ろいを感じ取ります。

和菓子職人が作る和菓子について

和菓子職人が身に付ける技にはどんなものがあるのでしょうか?

• 饅頭、羊羹、餅菓子などの「一般菓子」から、茶席で出される芸術性の高い「練り切り(ねりきり)」などの上生菓子までを作る。

• 小豆から「あん」を炊き上げる作業。その日の湿度や気温に合わせて水分量や火加減を微調整する。

• 四季折々の花鳥風月を、ヘラや指先、ハサミなどの道具を駆使して形作り。

手先が器用な方が向いていますが、それ以上に感性がものを言う世界です。職人は以下のすべてを意識して和菓子を作り上げます。

• 視覚: 美しい色彩や形

• 味覚: 素材の良さを活かした上品な甘み

• 嗅覚: 黒砂糖やよもぎ、桜の葉などの繊細な香り

• 触覚: 口当たりの良さや、手に取った時の質感

• 聴覚: 菓子につけられた「銘(なまえ)」を聞いて、その情景を想像する楽しみ

「五感の芸術」である和菓子。まさに感性を極限まで研ぎ澄ませる仕事と言えますね。

和菓子職人になるための修行の道のり

伝統的な和菓子店では、今でも「見習い」から始まる徒弟制度の名残がある場合が多いです。最初は道具の洗浄や片付けから始まり、数年かけて「あん」の炊き方を学び、一人前になるには10年以上の歳月が必要と言われる厳しい世界。最近では、製菓専門学校で基礎を学んでから入社するケースも増えています。

修行の合言葉は「あん炊き3年、包み3年」。和菓子職人の修行期間を象徴する言葉です。

【あん炊き3年】

和菓子の命である「あん」を完璧に炊き上げるまでに3年はかかるという意味です。「室内を冷房するとあんの味が変わるので、真夏でも灼熱のなかであんづくりをしています」というお店もあるほど、あんづくりはとても繊細な作業になります。

【包み(包あん)3年】

「包あん(ほうあん)」はあんを生地で包む基本動作で、手早く、かつ生地の厚みを均一に美しく仕上げる作業です。

【仕上げ、意匠(4年)】

この段階で求められるのは、技術の完成度だけではありません。「練り切り」などで季節を表現する造形技術。独自のレシピを生み出す発想力。さらに、茶道の知識を含めた総合的なプロデュース力が必要です。

和菓子職人の年収の目安は?必要な資格

和菓子職人の世界は今も「修行」の側面が強く、最初は低めからスタートし、技術の向上とともに収入が上がっていくのが一般的です。

キャリア別推定年収
見習い(1~3年目)200万~300万円
中堅職人(5~10年目)300万~450万円
ベテランまたは工場長500万~600万円
独立・オーナー経営者300万~1000万円以上

※賃金構造基本総計調査(厚労省)/民間給与実態統計調査(国税庁)/

民間の求人サービスデータより平均年収を算出。

資格がなくても和菓子職人にはなれますが、社会的信頼を得るうえで資格取得は大きな武器となります。「製菓衛生師」や「和菓子製造技能士」といった国家資格は和菓子職人が取得したい資格。和菓子業界最大手団体である「全国和菓子協会」が認定する、もっとも名誉ある称号が「選・和菓子職(せん・わがししょく)」です。

和菓子界の「マイスター制度」とも呼ばれ、職人にとって最高峰の栄誉の一つ。こうした称号を得ることは資格の枠を超えた大きな価値を持ちます。これらの資格や受賞歴は、手当・昇給の交渉材料になります。

和菓子職人それぞれの目的に合わせた、具体的なキャリアプランは?

【独立して自分の店を持つためのプラン】

自分のお店を持つなら、技術を磨くだけでなく「選ばれる理由」を作る必要があります。

• 修行期(1〜7年目)は、まずは老舗や有名店で基礎を固める。「あん炊き」から「包あん」まで、無意識に体が動くレベルまで到達したら「和菓子製造技能士(国家資格)」を取得し、対外的な信頼を得る。

• 自分は何を強みに勝負するのか?「伝統的な上生菓子」に強いのか、「SNSで話題になる大福」に強いのか、自分の得意分野を確立する。また、経営には原価計算や在庫管理の知識が必須なため、店舗運営の裏側も意識して学ぶ。

• 実店舗を持つ前に、まずは「ポップアップストア」や「オンライン販売」からスタートし、ファン(顧客)をつかむのが現代の成功ルート。

【海外で挑戦するためのプラン】

海外では「和菓子=ヘルシーなグルテンフリースイーツ」として注目されています。

• 英語(または現地の言葉)で、和菓子の背景にある「四季」や「ストーリー」を説明できるスキルを磨く。また、InstagramなどのSNSで英語を交えて発信し、海外にフォロワーを作っておくことが大きな武器になる。

• 海外では小豆などの材料が手に入りにくいことがある。現地のフルーツやナッツを使い、和菓子の技法で「現地の人に好まれる味」を再構築するなど柔軟な発想を鍛える。

• ワークショップの開催。「売る」だけでなく、現地で「教える(体験型)」のニーズは非常に高い。パフォーマンスとしての和菓子作り(練り切り細工など)を磨くと、イベント等に呼ばれる機会が増える。

ハイブリッドな和菓子職人を目指すなら!

これからの時代は「作るだけ」ではなく、「作る・語る・売る」の3つが大切になります。

海外を狙うなら、*ヴィーガンや*ハラールなど、食の制限に関する知識を今のうちから学んでおくと、世界市場で有利でしょう。

国内で独立するなら、お茶(茶道)だけでなく、コーヒーやワインと和菓子のペアリングを提案できると、新しい顧客層を掴めます。

*ヴィーガンとは、動物由来の製品を一切排除するライフスタイルのこと。

*ハラールとは、イスラム教の教えに基づく食のルールのこと。豚肉やアルコールは禁じられています。

和菓子職人は技術研鑽が必要ではあるが……

ここまで和菓子職人の積み上げていく技術習得についてご紹介しましたが、形が決まった商品をもくもくと作っている和菓子職人も少なくありません。例えば「おはぎ」だけ、「羊羹」だけをつくっている方など。まずは和菓子を作ること、手先を動かすことが好きかどうかで、和菓子作りの世界に飛び込んでみてから考えるのも一考ですね。

さて、和菓子職人の世界はいかがでしたか? 伝統の技術を守りながら、常に新しい驚きを届ける和菓子職人。その一菓に込めた伝統の技と心。深いこだわりを知ることで、いつもの和菓子がよりいっそう味わい深く、特別なものに感じられるはずです。

和菓子を通じて彼らが創り出す一服の涼や温もりは、慌ただしい現代社会において、私たちの心を深く癒やしてくれる至高の贈り物と言えるのではないでしょうか?

お仕事図鑑編集部
お仕事図鑑は、働く人の“リアルな経験とストーリー”を通して、未来のキャリアに役立つ視点を届ける「働くストーリーメディア」です。体験談・取材・インタビューなど複数の形で、1万5,000人以上の働く人の声を蓄積してきました。肩書きや仕事内容の説明だけでは見えにくい、仕事を選んだ理由、続ける中での葛藤、転機での判断、価値観の変化。そうした“プロセスのリアル”を丁寧に編集し、読者の気づきを次の一歩につなげるヒントとして届けます。
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