憧れから本物になる、フレンチシェフのリアル

フレンチシェフ。この言葉を聞くと、美しく盛り付けられた料理や、洗練されたレストランの風景を思い浮かべる人が多いでしょう。その一方で、「仕事内容はきついのではないか」「年収は現実的なのか」「自分に向いている仕事なのだろうか」といった疑問も、自然と頭に浮かぶはずです。

フレンチシェフは、憧れだけで簡単に選べる仕事ではありません。過酷な修行の日々に、心が折れそうになる瞬間もあるでしょう。それでも多くの人がこの道に進み、何年、何十年とかけて腕を磨き続けています。なぜそこまでして、この仕事を選ぶのか。この記事では、表からは見えにくい現場の実情や、実際に働いた人たちの体験をもとに、フレンチシェフという職業のリアルを一つずつ見ていきましょう。

目次

フレンチシェフの一日は、こうして進んでいく

多くのフレンチレストランでは、午前9時〜10時頃にシェフの仕事が始まります。厨房に入ってまず取りかかるのは、野菜の下処理や肉・魚の準備、そしてソース作りといった「仕込み」の作業。ランチ営業のある店では11時半前後からサービスが始まり、調理と並行して午後の準備も進めます。一旦片付けを終えた15時頃からは、再びディナーに向けた仕込みの時間です。この「アイドルタイム」は比較的落ち着いているとはいえ、翌日の準備や試作に充てることも少なくありません。

ディナーは18時〜19時頃にスタートし、20時前後にピークを迎えます。火入れや盛り付け、提供のタイミングを同時に管理する、まさに集中力の勝負。閉店は22時〜23時頃ですが、その後の清掃や翌日の段取りを終えて厨房を出るのは、早くても23時半、遅ければ深夜に及ぶこともあります。

フレンチシェフの一日は10時間以上に及ぶことが多く、その大半は地道な仕込みと確認の連続なのです。

フレンチシェフを目指す人が最初にぶつかる現実と、向き不向きの分かれ道

フレンチシェフを志した人の多くが、最初に直面するのは下積みの長さです。入店してすぐに料理を任されることはほとんどなく、洗い場や仕込み補助からのスタートが一般的です。同じ作業を半年から1年以上続けることもあり、「思っていたより地味だ」と感じる人は少なくありません。労働時間も長く、1日10〜14時間に及ぶ現場もあります。

現場では、「料理をしている時間より、準備と確認の方が長い」とよく言われます。華やかな仕事を想像して入った人ほど、この地味な時間の長さに戸惑います。

しかし現場に残っている人たちは、「この期間がなければ後で必ずつまずく」と口をそろえて言います。最初に身につくのは派手な料理技術ではなく、厨房のリズムや段取り、仕事の進め方です。この土台があるかどうかで、その後の成長スピードは大きく変わります。

フレンチシェフに向いているのは、器用な人よりも粘り強い人です。現場では、「才能がある人より、辞めなかった人が残った」という話がよく聞かれます。昨日より包丁が速くなった、ソースの味が安定してきた。そんな小さな変化を楽しめる人は、確実に力を伸ばしていきます。

一方で、短期間で成果を求めたい人や、生活リズムを最優先したい人にとっては厳しい仕事でもあります。向き不向きがはっきり分かれるからこそ、自分がどんな働き方をしたいのかを知ることが、この仕事に挑戦する上で大切になります。

フレンチシェフの年収はいくら?年代・立場別の収入イメージ

フレンチシェフの年収は、経験と立場によって大きく変わります。
若手では年収250万〜320万円ほど、中堅クラスで350万〜450万円、シェフクラスになると500万〜700万円以上を目指すことも可能です。

海外修行や有名レストランでの勤務経験があると、同年代でも評価が上がり、収入差が生まれるケースもあります。独立して成功すれば年収1000万円以上になることも珍しくありません。

フレンチシェフになるには?未経験からの現実的ななり方

フレンチシェフになる道は一つではありません。専門学校で基礎を学んでからレストランに入る人もいれば、未経験のまま現場に飛び込む人もいます。どちらの道でも共通しているのは、最初は「教えてもらう立場」ではなく、「手を動かしながら学んでいく立場」から始まるという点です。

専門学校に通う場合は、包丁の使い方や基礎的な調理理論を身につけた状態で現場に入れるため、スタートは比較的スムーズです。一方で、現場に入ってから覚える場合でも、洗い場や仕込み補助を通して厨房の流れを身体で理解できるため、遠回りになるとは限りません。

多くの料理人が、現場で3〜5年ほど基礎を積み、その後に評価の高いレストランへ移ったり、海外の有名レストランで修行したりしています。特にフレンチの世界では、どの店でどんな経験を積んだかが次のキャリアに直結しやすく、段階的にステップアップしていく人がほとんどです。

最初から完璧を目指す必要はありません。大切なのは、早い段階で現場に立ち、続けられる環境を選ぶことです。フレンチシェフへの道は、才能よりも「積み重ねた時間」がものを言う世界です。

海外の有名レストランで修行する意味とは?フランス修行のリアル

フレンチシェフを語るうえで欠かせないのが、海外の有名レストランでの修行です。伝統的なフランス料理は、バターや生クリーム、濃厚な出汁を多用する重厚な料理で、一皿を支えるための仕込み量も多くなります。近年は本場フランスでも軽やかな表現が増えていますが、修行ではまず、この伝統を深く理解することが求められます。

特にフランスでは分業制が徹底され、ソース、肉、魚など担当が細かく分かれています。一つの工程を突き詰める環境に身を置くことで、「なぜこの作業が必要なのか」を身体で理解できるようになります。実際に海外修行を経験した料理人の多くが、料理に対する基準が大きく変わったと語ります。

もちろん現実は厳しく、低賃金や長時間労働、言葉の壁といった苦労もあります。それでもこの経験は、帰国後の転職や独立において大きな信頼となり、キャリアの選択肢を広げてくれます。

フレンチシェフになるのに資格は必要?現場で求められる本当の力

フレンチシェフになるために、必ず必要な資格があるわけではありません。実際、現場で働く多くのシェフは「資格より経験」と口にします。調理師免許や専門学校の修了資格は、基礎知識を学ぶうえで役立ちますが、それだけで一人前として扱われることはありません。

現場で本当に求められるのは、再現力と段取り力です。同じ仕込みを毎日同じ精度でこなせること、忙しい時間帯でも手順を崩さず動けること。これは資格では証明できず、日々の積み重ねでしか身につきません。包丁さばきや火入れも、才能より回数がものを言う世界です。

専門学校を出ている人はスタートが少しスムーズな場合もありますが、未経験から現場に入り、洗い場や仕込み補助を通して力をつけていく人も珍しくありません。フレンチシェフの世界では、「何を持っているか」より「どれだけ積み上げてきたか」が評価されます。

厳しくても、辞めなかった理由。フレンチシェフという仕事の魅力

フレンチシェフの仕事は、長時間労働や下積みの長さ、すぐに結果が出ない日々の中で、一度は辞めたいと感じたことがある人もたくさんいます。それでも現場に残り続けた人たちには、はっきりとした理由があります。

一つは、自分の成長を実感しやすいことです。昨日できなかった作業ができるようになり、数年前には任されなかったポジションを任されるようになる。フレンチの現場では、仕込みや火入れといった工程一つひとつが技術として積み上がり、その変化が目に見える形で返ってきます。身についた技術は流行に左右されにくく、年齢を重ねても自分の力として残り続けます。

もう一つは、フレンチならではの奥深さです。ソースや出汁、火入れといった下準備の段階で味の大半が決まるため、ごまかしはききません。重厚なフランス料理の伝統を理解したうえで、日本の食材や味覚にどう合わせていくか。その調整力が求められる点に、他の料理ジャンルにはない難しさと面白さがあります。

そして、料理を通して人の大切な時間に関われることも、この仕事の魅力です。誕生日や記念日といった特別な一日の一皿を任され、「おいしかった」と言われた瞬間に、それまでの苦労が報われたと感じる人も少なくありません。

厳しい環境だからこそ、続けた人にしか見えない景色があります。フレンチシェフという仕事は簡単ではありませんが、積み重ねた時間が確かな技術となり、そのまま価値になる職業です。

お仕事図鑑編集部
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