2026.03.08

日本の大工技術を、社会貢献へ

全3回でお届けしてきた、リフォームのプロフェッショナル・今井辰也さんのキャリアストーリーも、いよいよ最終回です。

1回目では、他社が断る難題を解決する「プロの発想力」を、2回目では、挫折と苦難を乗り越え、「圧倒的な職人の道」を切り拓いた再起の物語を伺いました。

最終回となる本記事では、今井氏のキャリアの根底にある「仕事の哲学」と、自らの技術をどう活かすかという「未来への展望」に迫ります。今井さんが語る「夢」と「自由」の定義は、キャリアの「意味」や「目的」を探しているあなたの心に、きっと深く響くはずです!

第1回:独立から28年、一度も仕事が絶えない大工の「プロの発想力 
第2回:挫折と苦難を乗り越えて、圧倒的な職人の道へ

目次

「大工」という職人の世界

「職人」と聞くと、あなたはどんなイメージを持ちますか?頑固?無口?気難しい?そんな古いイメージを持つ人もいるかもしれませんね。しかし、今井さんが語る職人の世界は、もっと柔軟で明るく、光り輝いています!

「職人って、誰にでもなれるんですよ。学歴とか経験とか関係なく、やる気さえあれば。だって、僕がそうだったから」

今井さん自身、中学時代に挫折を経験し、アルバイトから大工の道に入りました。だからこそ、若い世代に「誰にでもなれる」と力強く語ります。

そして世界を経験した今井さんは、日本の大工のとある特徴にも気づきました。

「大工の職人って日本特有なんですよね。欧米では、お父さんが日曜大工的にやってるから、できる人は多い。みんなできるけど、追求した人は少ない。だから、僕たちの技術を見ると目を丸くするんです」

外に出たからこそ気付いたことでした。誰でもできること、誰でも突き詰めれば職人になれるけど、「突き詰める」という思考がなければ「突き詰められない」。職人になる!とあなた自身が心に誓った時こそが、「職人」の始まりなのかもしれません。

釘を使わずに家が建つ?職人にしか見えない扉がある

TVチャンピオン優勝後、今井さんは「職人ワゴン」の棟梁として、日本の大工道具一つで世界を巡る旅に出ました。そこで再認識したのは、日本の伝統技術の素晴らしさです。

海外の人が最も驚いたのが、木組みの技術でした。釘を使わずに、木と木を組むだけで家が建つ。それは本当に不思議なことだったのでしょう。しかも、組みあがる瞬間まで一体何がどうなるか想像もつかないのです。

今井さんはある時、とある場所を指差し、「ここ、撮影しておいた方がいいですよ」とカメラマンに伝えます。そこは何もない「空間」です。カメラマンは怪訝そうな顔をしながらも、言われた通りに撮影していたそうです。

すると、ある時今井さんが指差していた空間に「扉」が現れたのです。まさに木組みの技術と同じ。それは「職人にしか見えない扉」だったのです。

この経験は、私たちに「専門性を極めることの面白さ」を教えてくれます。自分のスキルを深く掘り下げ、突き詰めた時、その技術は人々に感動を与え、まるで魔法かのような働きをします。キャリアの壁にぶつかったときこそ、自分の専門性を信じ、さらに深く掘り下げてみることが大切なことを学ばせてくれますね。

「お天道様は見てる」必ず報われる

今井さんの仕事の哲学を語る上で欠かせないのが、母親から教わったというこの言葉です。

「「お天道様は見てる」。これは、僕の仕事の根幹にある言葉ですね。誰が見ていなくても、実直に、誠実に仕事をしていれば、必ず報われる」

新入社員が入った時、今井さんは必ずこの事を伝えるそうです。リフォームの依頼が来た時、まずは見積もりをとりに依頼主の家へと出向きます。この時点ではまだ仕事に繋がるかはわかりません。

見積もりが終わり家から出た時、今井さんは部下と共に家に向かって必ず一礼します。そこには誰もいません、ただただ家があるのみです。しかし、「お天道様は見てる」。

するとなんと、そんな今井さんたちの姿を、インターホン越しに依頼主が見ていたのです。

翌日、その家の娘さんから電話が入り、「ぜひあなたたちにお願いしたい。父がインターホン越しに見たあなたたちの姿に感動していました」と伝えられたのです。

このエピソードは、短期的な成果や評価に一喜一憂する私たちに、大切なことを思い出させてくれます。仕事は、誰かに見せるためにするものではなく、自分の良心に従い、お客様の「思い」に応えるためにするものです。

今井さんが紹介だけで28年間もの間、仕事が途絶えないのは、この「お天道様は見てる」という哲学に基づき、一つ一つの仕事に真摯に向き合ってきた結果です。短期的な成功ではなく、長期的な信頼を築くことこそが、キャリアを安定させ、豊かにする秘訣なのです。

人生は巡っているから面白い

今井さんの人生には、いくつもの「縁」があります。その中でも、今井さんご自身が「人生は巡っている」と感じた象徴的なエピソードがあります。

それは、おととしからの2年間、息子さんが通う中学校でPTA会長を務めたことです。

「僕、中学時代はほとんど学校に行ってないんですよ。卒業式も校長室で一人で受け取ったくらいで。そんな自分が、まさか息子の中学でPTA会長をやるなんて、人生って本当に面白いですよね。これも何か意味があるのかもしれないですね。あの時行けなかった分、今、学校という場所で、子供たちのために何かできる。そう考えると、すべての経験は無駄じゃないんだなって思えます」

ほとんど中学に行かなかった過去を持つ今井さんが、PTA会長として再び中学校という場所に戻ってきた。これは、過去の自分と向き合い、人生が「巡っている」ことを実感した瞬間だったのです!

キャリアにおける挫折や遠回りや逃げも、決して無駄ではありません。それは、いつか「人生が巡ってきた」ときに、誰かの役に立つための準備期間なのかもしれません。

「夢」とは「自由」だ!

最後に、今井さんが語る「夢」の定義は、非常に示唆に富んでいます。

「俺にとっての「夢」とは、「自由」であること。明日の手帳を自分で埋めることができる。仕事を自分で選ぶことができる。それが、職人としての最高の夢ですね」

ここでいう「自由」とは、何でも好きにやっていいという訳ではありません。それは、「責任を伴う自由」です。自分の技術と信頼によって、自分の時間と仕事内容を自分でコントロールできる状態。会社員であれ、独立であれ、私たちは皆、自分のキャリアをデザインする責任と自由があります。今井さんの言葉は、「誰かに決められた人生」ではなく、「自分で選んだ人生」を歩むことの重要性を訴えかけます。

今井さんが語る職人としての夢

また、今井さんは別の夢を語ってくれたのですが、それは自分の技術を無償で提供すること。「小さなワゴンがいいですね」と恥ずかし気に語る今井さんは、職人としての純粋な社会貢献への思いを語ってくれました。

「僕の技術は、家を直すことだけじゃない。困っている人を助けることにも使いたい。小さなワゴンに道具を積んで、災害があった場所とか、本当に助けを求めている人のところに、無償で駆けつけたいんですよ。そのあと、僕が助けた人が、その人のスキルでまた別の人を助ける。そんな風に巡ってほしいです」

今井さんが語るこの「巡っている」という哲学こそ、彼の仕事観の最終到達点です。かつて、独立直後に仕事ゼロだった今井さんを助けた人たちがいたように、今度は自分がその「恩」を、技術という形で社会に還元する。そして、その技術によって救われた人が、また別の誰かを助ける。「誰しもが職人になれる」と語る今井さんだからこそ考えついた、職人としての最高の夢であり、社会貢献の形なのです。

今井さんの生き方は、職種や立場に関係なく、「自分の人生の棟梁は自分自身である」ということを教えてくれます。挫折を恐れず、自分の技術と哲学を磨き続ければ、キャリアは必ず開けます。今日から、あなたのキャリアを自らデザインし、あなただけの「自由」という名の夢を掴み、そしてその力を誰かのために「巡らせる」ことを意識してみましょう!

この記事を書いた人

お仕事図鑑は、働く人の“リアルな経験とストーリー”を通して、未来のキャリアに役立つ視点を届ける「働くストーリーメディア」です。体験談・取材・インタビューなど複数の形で、1万5,000人以上の働く人の声を蓄積してきました。肩書きや仕事内容の説明だけでは見えにくい、仕事を選んだ理由、続ける中での葛藤、転機での判断、価値観の変化。そうした“プロセスのリアル”を丁寧に編集し、読者の気づきを次の一歩につなげるヒントとして届けます。

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