前回の記事では、シンガーソングライター・新地アスカさんが幼少期の「音への執着」から才能を開花させ、「仮歌の女王」と呼ばれるスタジオシンガーとして日本の音楽業界で確固たる地位を築くまでの軌跡を追いました。
順風満帆に見えたそのキャリア。しかし、アスカさんは突如として、その「天職」とも言える地位を離れ、新しい道を選びます。なぜ、彼女は自ら成功を捨てたのでしょうか?
本記事では、彼女がスタジオシンガー時代に培ったプロ意識、そして彼女の人生観を根底から覆した海外での経験に焦点を当てます。さらに、その後の起業への大胆な転身と、そこで直面した新たな挫折までを深く掘り下げていきます。

「仮歌の女王」として活躍していたアスカさんですが、そもそもスタジオシンガーとはどのような仕事なのでしょうか?
スタジオシンガーは、アーティストが歌う前のデモ音源などに仮の歌を入れる、「歌のプロフェッショナル」です。アーティストの方向性や楽曲の意図を正確に理解し、それを表現する高い技術と、どんなジャンルにも対応できる柔軟性が求められます。
このアスカさんの歌を参考に、アーティストが歌うのですから、その技術力の高さがうかがい知れますね。
アスカさんにとって、この仕事はまさに「天職」でした。彼女は、単に歌うだけでなく、その場でコーラスを提案するなど、クリエイティブな側面でも貢献し、多くの作曲家やディレクターから絶大な信頼を得ていました。
スタジオシンガーとして指名され続けたプロ意識

アスカさんが指名され続けた理由は、その「言われたことだけをやらない」というプロ意識にありました。ただ指示を待つだけではなく、常に「この曲をより良くするにはどうすればいいか」を考え、積極的に提案を行いました。幼少期に培った相対音感と、音楽への深い理解があったからこそ、レコーディングの現場で即座に、この作曲家のために、このアーティストのために、という提案ができたのです。
さらに、仕事へのフットワークの軽さも忘れてはいけないでしょう。夜間の急な依頼にも「やりたいからやる」というシンプルな情熱で応え、「いつでも、どこでも、最高のパフォーマンスを提供する」という姿勢が、彼女を業界で唯一無二の存在にしました。このプロフェッショナルとしての姿勢は、彼女のその後のキャリアの土台となります。
「もっと自由に生きていい」人生観を変えた海外での経験

スタジオシンガーとして多忙な日々を送る中、アスカさんは海外での経験を通じて、自身の人生観を大きく揺さぶられます。
はじめは、休みをとっていた3か月間の予定でした。しかし、アメリカで触れた文化や人々の価値観は、彼女に「もっと自由に生きていい」という気づきを与えました。日本の音楽業界の慣習や、周囲の期待に応えようとする中で、無意識に課していた制約から解放され、自己表現の可能性を再認識したのです。
「子どものころから、自己表現が苦手でした。私が唯一自分を出せたのが音楽だったんです」
音楽や歌でしか自分を表現できない。そう語るアスカさんにとって、自分の歌を受け入れ、その多様な価値観を教えてくれたアメリカが、忘れられない国になったのでしょう。
予定の3か月を過ぎ、ビザの関係から出国しなければいけない。日本ではスタジオシンガーでの仕事も待っている。でも、まだ海外にいたい!そう思ったアスカさんは、90日間だけ入国できるカナダに渡り、さらに見聞を深め、日本に帰国します。
「香水で勝負」ブルージェイズ国家斉唱の裏話

アスカさんの挑戦心とプロ意識を示すエピソードとして、トロント・ブルージェイズの試合での国家斉唱オーディションがあります。
日本に帰国したアスカさんは、日々に追われながら、再び海外に渡る機会を探していました。そんなアスカさんの元に、カナダのトロントで行われる「ブルージェイズVSヤンキース」の一戦での国家斉唱のオーディションの話が舞い込んできます。
メジャーリーグでの国家斉唱。まさにアスカさんが世界へ羽ばたくきっかけとなるチャンスです!
彼女は、オーディションに際し、単に歌唱力だけでなく、「自分という存在を記憶に残す」ための戦略を練りました。それが、「香水で勝負」というユニークなアプローチです。
「もう夢中で応募用紙を書いてました。ほとんど記憶がないんですけど、気が付いたら紙に香水をかけてたんですよね…」
魂を込めて書いた「応募用紙」に、なんと香水を振りかけたのです。応募用紙を読んだ審査員に圧倒的な印象を残す。アスカさんの作戦が見事的中し、書類選考を通過。そして対面のオーディションでは、審査員から「書類と同じ香りだね」と言われ、たった一枠をつかみ取ったのです。
審査員の記憶に圧倒的な印象を残す。このエピソードは、彼女が常に「どうすれば他者と差別化し、プロとして最高の価値を提供できるか」を考えて行動していたことを示していますね。
友人の誘いからまさかの起業へ!
海外での経験と、スタジオシンガーとしてのプロ意識を背景に、アスカさんは大胆なキャリアチェンジを決断します。それが、起業です。
起業家の友人からの誘いを受け、彼女は音楽活動を休止し、ビジネスの世界へと飛び込みます。この決断の背景には、「天職」を極めたからこそ見えた、「自分の才能を音楽以外の分野でも活かせるのではないか」という新たな可能性への挑戦がありました。
しかし、この起業家への転身は、彼女にとって新たな試練の始まりとなったんです。
起業の挫折で資金が溶ける…藁にもすがる思いで手を出した案件

起業は、アスカさんが想像していた以上に厳しいものでした。経験不足、予期せぬトラブル、商品はできたものの、誰にどう売ればいいかわからない、頼れる人もいない…、資金はみるみるうちに溶けていきます。
そして、この経済的な苦境から抜け出すために、彼女は「藁にもすがる思い」で、ある案件に手を出してしまいます。それが、後に彼女を借金500万円という「人生のどん底」へと突き落とすことになってしまいました。
この挫折は、彼女を「人生のどん底」に落としますが、同時に、アスカさんが真に立ち直るための強烈な原動力となります。
【次回予告】

起業を経験し、その厳しさを痛感する日々。さらに追い打ちをかけるように、仲間の裏切り、詐欺、原因不明の体調不良。アスカさんが「人生のどん底」からいかにして「このままじゃ終われない!」と奮起し、運命的な出会いを通じて再び夢を追い始めることができたのか?
次回は、最も苦しい時期から立ち直る原動力、そして仲間たちを世界へ連れていく壮大な夢の全貌に迫ります。

